それを目で追って、浪人の一人が呼び止めようとした。
当時就職浪人だった俺は、両親から完全に縁を切られていた。
風采の上がらない、どこにでも居そうな浪人の男であった。
次の瞬間、九郎は持っていた棒きれで浪人の鳩尾を突いた。
という浪人のざわめきが聞こえてきて、九郎は身構えた。
江戸時代の素浪人風、と言えばイメージがつくだろうか。
それこそ、就職浪人をしていた、いつかの俺のようにな。
対する浪人は大きく脚を開き、ドッシリと腰を落としている。
さすがに浪人たちも伊勢原までは探しに来ないだろう。
浪人らは安堵の笑みを浮かべながらざわめきを零している。
なんでも、浪人の身でいたけど、また戻ってきたんだって。
高校浪人を恥ずかしいと感じる神経は彼にはなかった。
そんなことを就職浪人時代に考えて、一日を潰していたな。
男、名を録山晃之介(ろくやま こうのすけ)という浪人である。
あえて名付けるとすれば、『恋人浪人』になるのだろうか?